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写真に関する不正事例いろいろ

  • tokuhata
  • 2 日前
  • 読了時間: 6分

Unprofessional photographer,  generated by Nano Banana
Unprofessional photographer, generated by Nano Banana

はじめに

 写真コンテストにおける不正や規定違反による受賞取り消し事例は、フィルム時代からデジタル、そしてAI時代へとその手口を変えながら存在し続けています。以下に、国内外の有名な事例を挙げ、その経緯と問題点をまとめました。生成AI以外の事例も含みます。FLAMINGONE事件は実際にカメラで撮影した写真をあえてAI写真コンテストに出品して入賞させるという事例であり、逆の発想で興味深いです。最後に技術的課題を総括します。



不正事例いろいろ


1. 第42回埼玉県写真サロン (2025年)

・ 作品名/作者: 《俺の頭だぞ!》 / (受賞者名非公表、後に取り消し)

・ 経緯: 全日本写真連盟埼玉県本部と朝日新聞社が主催するコンテストで、カエルの頭にトンボが止まったユーモラスな瞬間を捉えたとして最優秀賞に選出されました。しかし発表後、SNS上で「海外の画像素材サイトにあるAI生成画像と酷似している」という指摘が相次ぎました。 主催者が調査を行ったところ、受賞者が「自身が撮影・制作した作品ではない」ことを認めたため、賞は取り消されました。さらに、この受賞者の過去の入賞作品についても同様の不正(ストックフォトの流用など)が疑われており、調査が進められています。

・ 問題点: 「盗作」と「AI生成」の複合的な不正。 このケースの特異な点は、単にAIを使っただけでなく、「ネット上のAI生成画像をダウンロードし、それを自作として応募した(盗作した)」という二重の倫理違反にあります。また、地方のコンテストやサロン形式の審査において、画像検索などのデジタルチェック体制が整っておらず、性善説に基づいた審査の限界が露呈しました。

・ 参照: 全日本写真連盟埼玉県本部「おことわり」 および 朝日新聞、ITmedia NEWS等の各社報道 (2025年11月)



2. Sony World Photography Awards (2023)

·       作品名/作者: 《PSEUDOMNESIA: The Electricia》 / Boris Eldagsen

·       経緯: クリエイティブ部門で優勝しましたが、作者本人が授賞式で「これは生成AIで作った画像である」と告白し、受賞を辞退しました。作者は「写真界がAI画像の流入に対して準備ができているか」を問うためにあえて応募したと述べました。

·       問題点: 「写真(Photography)」の定義とAIの境界線。 審査員がプロの目を持っても、高精度な生成AI画像を見抜けなかったこと、および応募規約における「写真」の定義がAI時代に対応しきれていなかったことが露呈しました。

·       参照: Sony World Photography Awards Statement (当時の報道および公式声明に基づく) / Boris Eldagsen Official Site



3. Nikon-International Small World Competition (2022)

·       作品名/作者: アリの顔の超拡大写真 / Eugenijus Kavaliauskas

·       経緯: 「顕微鏡写真コンテスト」の入賞作品として話題になりましたが、そのあまりに恐ろしい形相が「AIではないか?」「過度な加工ではないか?」とネット上で大炎上しました。実際には受賞取り消しには至っていませんが、コンテストの信頼性を揺るがす議論となりました(※本件は取り消しではなく「疑惑による炎上」の代表例として記載します)。

·       問題点: 科学写真における「真実性」と「美的表現」のバランス。 顕微鏡写真は構造を見やすくするためにスタッキング(深度合成)や着色を行いますが、一般大衆が抱く「写真のリアリティ」との乖離が議論を呼びました。

·       参照: Nikon Small World 2022 Gallery



4. Wildlife Photographer of the Year (2017)

·       作品名/作者: 《The Night Raider》 / Marcio Cabral

·       経緯: アリ塚の光る虫を狙うアリクイを捉えたとして「Animals in their Environment」部門で優勝しました。しかし、写真に写っているアリクイが、公園入り口に展示されている「剥製」と極めて似ているという匿名の告発があり、専門家チームによる検証の結果、剥製である可能性が極めて高いとして失格となりました。

·       問題点: 野生動物写真における「やらせ(ステージング)」。 野生生物の生態をありのままに捉えるというコンテストの倫理規定に対する重大な違反でした。

·       参照: Natural History Museum Statement



5.天文雑誌「星ナビ」2008年6月号(コンテストではない)

・作品名・作者:天文雑誌「星ナビ」2008年6月号の表紙画像

・経緯:天文雑誌「星ナビ」の2009年10月号(2009年9月5日書店発売)の表紙に掲載した画像が、チェコ共和国のMiloslav Druckmüller氏がWebページで公開している画像と酷似している件。外部からの指摘により編集部が作者に問い合わせた結果、画像を無断で複製加工し、撮影データとコメントを偽って発表したものだということを認めました。その後の調査でこの作者による50点以上の作品が盗用、改ざんであることが発覚しました。

・問題点:この作者は優秀な写真を提供する常連であり編集部のチェックが甘くなっていた可能性があります。そして、作者は長年の不正により感覚がマヒしていたと思われます。

・参照:



6. FLAMINGONE事件と取り消し問題 (2024)

・作品名・作者:FLAMINGONE,  Miles Astray

・経緯:2024年の国際的なAIフォトコンテスト「1839 Awards」において、写真家マイルズ・アストレイ氏が応募した作品「FLAMINGONE」は、AI画像部門で3位を受賞しました。しかしこの作品は、実際にはAI生成ではなく実写のフラミンゴ写真であり、後にその事実が判明したことで受賞が取り消されるという事態に発展しました。

・問題点:

審査基準の限界:AI画像部門で実写が見抜けなかったことは、審査の信頼性に疑問を投げかけました。

ジャンルの境界の曖昧さ:AI生成と人間の創造性の違いが視覚的に判別しづらくなっている現状が、制度設計の難しさを示しています。

意図的な挑戦と倫理:アストレイ氏は「人間の創造性がAIに劣っていないことを証明したかった」と語っており、これは単なる違反ではなく、制度への批評的行為とも受け取られています

・参照:




技術的課題


1.     「写真」の定義と規則の再構築

従来の「露光・現像・トリミング」の範疇を超え、生成AI、高度な合成(コンポジット)、深度合成などが普及しています。「何をもって写真とするか(AIは可か不可か)」「どこまでの加工を許容するか(不要物の消去は可か)」を部門ごとに極めて具体的に明文化する必要があります。

2.     審査能力(真贋判定)の強化とプロセスの透明化

人間の目視だけでは判別不可能な領域に入っています。RAWデータ(未加工データ)の提出義務化、メタデータ(Exif情報)の解析ツールの導入、あるいはAI検知ソフトの活用など、技術的な裏付け確認を審査フローに組み込む必要があります。

3.     倫理観の啓蒙とペナルティの明確化

報道・ネイチャー分野での「やらせ・演出」や、虚偽のキャプション(撮影地や被写体の説明)は写真の価値を根底から覆します。応募者に対し「記録」としての写真の倫理を啓蒙すると同時に、違反時の公表や将来的な応募禁止などのペナルティを明確にすることで抑止力を高める必要があります。

4.     性善説からの脱却と「事前スクリーニング」の導入

伝統的な写真コンテストは「応募者は撮影者本人である」という性善説で成り立っていましたが、もはやその前提は崩れています。特に「素晴らしい決定的瞬間」の作品については、審査員が評価する前に、Googleレンズなどの画像検索ツールにかけるといった事務的なスクリーニング工程を必須にする必要があります。

5.     「AI生成画像」が市場に溢れていることへの認識

以前は「盗作」といえば他人の撮影した写真でしたが、現在は「誰でも安価に入手できる高品質なAIストックフォト」が盗作のソースになっています。審査員は写真を見るだけでなく、主要なAI画像やストックフォトのトレンドも把握しておく必要があります。


 
 
 

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