AIは特許発明者になり得るか
- tokuhata
- 2024年4月23日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年4月27日

近年、生成AIが急速に進歩しており、創作過程におけるAIの利用が拡大されつつあります。文章、画像、映像、音楽などがあげられますがさらに生成AIによって生まれた発明を含む特許出願が予想されています。ここではAIを利用した創作の特許法上の保護の在り方について動向を整理します。
1.特許庁による調査:2024年4月
「AIを利活用した創作の特許法上の保護の在り方に関する調査研究…」という記事が特許庁ホームページに掲載されました。「AIを利活用した」が意味するところは文字通り発明の創作過程においてAIを利活用するという意味でありAIに関連する特許ということではありません。特許庁の記事では課題として、① 発明該当性 、 ② 進歩性 、 ③ 記載要件 、 ④ 発明者の 4 つの観点に基づいて調査を行った結果を述べています。マスコミのニュース記事(下記参照)でも取り上げられましたがこの記事では4番目の課題のみが紹介されています。4番目の課題が最もわかりやすく一般受けする課題であることが理由と思われます。以下、AIは特許発明者になり得るか、という点に絞って述べます。
この調査は企業・研究機関を対象にアンケートと聞き取り調査を実施した結果に基づいています。その結果、発明者は自然人でなければならないという見解が大勢です。以下に要点をまとめます。
・AIによる自律的な発明といっても現状では発明の創作に人間の関与が必要であることから具体的に関与した者を発明者とすればよいとする意見が多い
・今後、AIが進歩して人間の関与が小さくなったとしてもその者を発明者にすればよい
・AIにはインセンティブを与える必要性がないためAIに権利主体を認めるメリットはない、AI自体には権利能力がないのでAIを権利主体として認めることは法理論上考えにくい
特許庁による発表
ニュース記事
2.過去の裁判事例
「AIは特許発明者になり得るか」という問題については裁判事例がいくつかあります。日本を含め世界各国の特許制度において「発明者」は自然人でなければならないと考えられています。以下の海外事例においても、発明者は機械ではなく人間でなければならないとして拒絶されています。
Thaler v. Vidal(US):
2019年、Stephen Thaler氏が2件の特許出願を行い、DABUS (Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience) と呼ぶAIシステムを「発明者」として記載した。米国特許商標庁(USPTO)は、人間の発明者を記載していないため、出願が不完全であるとターラー氏に通知した。ターラー氏は連邦巡回控訴裁判所に控訴したが、連邦巡回控訴裁判所は、米国特許法では自然人のみが発明者になれるとの判決を下した。1)
英国控訴裁判所(UK):
2021年9月、英国控訴裁判所は、英国の現行の法的枠組みでは特許出願に関して発明者としてAIが記載されることはできないとした。2)
英国最高裁判所(UK):
2023年12月、英国最高裁判所は、現行法の下で特許を出願するには「発明者は人でなければならない」との判決を下した。3)
この事例は世界的に注目を集めました。例外もありますが複数の法域でAIは特許出願において発明者として認められず、発明者は自然人でなければならないという最高裁の見解が示されています。なお、2件の特許出願は却下されましたがその理由は手続き上の不備を問題にしています(EPC 第81条 発明者の表示、EPC施行規則 規則19 発明者の指定)。DABUSはStephen Thaler氏が開発したAIで、人間が介入することなくアイデアを生み出すことができるAIだとされています。5)6)
Thaler氏自身を発明者にすればよさそうですがあえてそうしなかったのは、「AIも発明者として認められるべきだ」と主張することが目的のひとつではないかと想像します。
AIが発明者になれないのは当たり前だろう、と思われるかもしれませんが、この事例を見るとかなり突っ込んだ議論がされていることが分かります。それだけAIの進歩は著しく、判断が難しいということだと思います。特許の目的は発明者に対して一定期間のインセンティブを与えることですから現時点では人格を認められていないAIが発明者になれないことは自然な解釈のように思われます。ただし、AIは発展途上にありその進歩は目覚ましいので今後の展開次第ではAIが発明者の条件を満足するか、あるいは法改正の可能性はありそうです。
□
コメント