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著作権法とフェアユース

  • tokuhata
  • 3月30日
  • 読了時間: 7分

Fair Use
Fair Use

はじめに


 生成AIの学習データを巡って多くの訴訟が進行中です。これらの訴訟は、著作権保護とAIに関する技術開発促進という対立する二つの利益のバランスをどのようにとるかという課題を提起しています。訴訟のほとんどは米国であり、日本での訴訟事例は少ないようです。被告の多くはAI開発企業です。彼らは主にフェアユースを抗弁としていますが、その成否はケースバイケースで判断されている状況です。本記事ではフェアユースの考え方を整理し、現在の法的状況を踏まえて今後の課題と解決策を提起します。


 そもそもなぜフェアユースの考え方が生まれたのでしょうか。その目的・意義は何でしょうか? フェアユースの考え方は、著作権保護と社会的利益のバランスを取る必要性から生まれました。著作権は著作物を保護することで創作者の権利を守り、創作活動を促進する役割を果たしますが、一方で過度な保護は情報の流通や利用を妨げる可能性があります。フェアユース法理は、このような理念を実現するために設計されており、現代社会において情報の自由な流通を支える重要な枠組みとなっています。これにより、創作者の権利と社会全体の利益との間のバランスを保つ役割を果たしています。


 著作権法における「フェアユース(Fair Use)」は、米国特有の法理であり、他の国の著作権制度とは異なります。特に日本との違いを比較しながら説明します。



1. 米国のフェアユースとは?

 米国では、著作権法(17 U.S.C. §107)に基づき、著作物の使用が「フェアユース」と認められる場合、著作権者の許可なく利用できる仕組みがあります。フェアユースかどうかは、次の4つの要素を総合的に判断して決定されます。


(1)利用の目的と性格: その利用が営利目的か、非営利の教育目的かを評価する。著作物の利用に営利性がある場合は、フェアユースを否定される可能性が高い

(2)著作物の性質: 著作物が事実に基づくものか創作的なものかを考慮し、事実に基づく著作物の利用はフェアユースを認められる可能性が高い

(3)利用部分の量と実質性: 元の作品のどれだけの部分が利用されているかを評価し、利用部分が少ない場合、利用部分が著作物の核心的内容に触れていない場合、フェアユースが認められる可能性が高い

(4)市場に対する利用の影響: 利用が元の作品の市場価値に影響を与えるかどうかを調べ、市場に害を与えない利用はフェアユースを認められる可能性が高い


 フェアユースの原則は、著作権者の権利と、創作物の広範な頒布と利用という公共の利益とのバランスをとることを目的としています。例えば、批評、研究、教育、パロディ、報道などの目的で著作物を適切に利用すれば、フェアユースが認められる可能性が高いと思われます。



2. 日本の著作権法

 日本では、フェアユースの一般原則は存在せず、著作権法に明確に規定された「権利制限規定」の範囲内でのみ著作物の無断使用が認められます。ただ、この内容が他国と比較して利用者側に有利に解釈されやすいことから、機械学習に関しては「学習天国」と呼ばれることがあります。


日本のAI学習に関する法律

 日本の著作権法では、「著作権制限規定」(第30条の4) により、著作権者の許諾不要なケースが規定されています。


第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合

二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合

三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合


 この規定の目的は、技術の進歩や情報技術の発展に伴い、著作物の新たな利用形態が生じる中で、柔軟かつ適切な権利制限を設けることです。具体的には、AIやビッグデータ解析の分野で、著作物を技術開発や情報解析のために利用する際に、著作権者の許諾なしで一定の範囲で利用できることを認めています。これにより、技術革新や情報活用を促進しつつ、著作権者の利益も保護することを目指しています。

 この規定により、日本ではウェブ上のコンテンツや書籍、音楽、画像などを広範囲にAI学習に使用できる ため、「学習天国」と呼ばれるようになりました。



3.学習天国を是正するべきか


 日本の著作権法は、AIの発展と著作権のバランスをとるという観点から妥当と言えるでしょうか? 現状では「学習天国」という言葉もあるように著作権者にとって不利とされています。バランスをとるためにどう法改正すべきかを考えてみます。


「著作権制限規定」(第30条の4) は、次のような理由から問題視されています


(1)著作権者の利益を損なう可能性

- AIが学習したデータをもとに生成したコンテンツが既存の著作物と酷似する場合、著作権者の市場を奪う可能性がある。

- しかし、現行法では学習自体を規制する明確なルールがなく、著作権者が適切な対価を得る仕組みが整っていない。


(2)「不当に害される」の解釈が曖昧

- 法第30条の4には「著作権者の利益が不当に害される場合は適用されない」とあるが、何をもって『不当』とするかの基準が明確でない。

- そのため、現状ではAI企業に有利な形で解釈されやすい。


(3)国際基準とのギャップ

- 米国やEUでは、著作権者がAI学習のための利用に対して一定の権利を持つ(例:EUの「データマイニングのオプトアウト権」)。

- 日本はこの点で後れを取っており、著作権者が不利益を被る可能性が高い。



バランスを取るための法改正アイデア


① オプトアウト制度の導入(EU方式)

 - 著作権者が自分の著作物をAI学習に利用されたくない場合、「明示的に拒否できる仕組み」を作る。

 - EUでは「データマイニングのオプトアウト権」が導入されており、日本でも同様の仕組みを導入すべき。

 - 例えば、著作権者が特定のデータベース(例:JASRACや出版社の登録システム)に「学習禁止」リストを登録できるようにする。


② AI学習の対価支払いシステム(使用料モデル)

 - AI開発者が、学習データとして使用した著作物の使用料を支払う制度を導入。

 - 例:

  - 包括的ライセンス制度(AI企業が定額を支払って著作物を学習に利用)

  - 生成物の売上に応じた分配(AIが生成した作品が商業利用された場合、原著作物の権利者に一定割合を還元)


③ 「不当に害される」の基準を明確化

 - 「市場への影響」「類似性の度合い」「著作権者の意向」などを総合的に判断し、ガイドラインを策定。

 - 例えば、「AIが生成したコンテンツが原作と90%以上一致する場合は著作権侵害とする」など、具体的な基準を設定する。


④ AI生成物に「出典表示」の義務化

 - AIが生成した作品には、「どのデータを学習に使用したかを明示する義務」を課す。

 - 例えば、生成された文章や画像に「この作品は以下のデータを学習したAIによって生成されました」と表示するよう義務付ける。


⑤ 著作権者のデータ提供インセンティブ制度

 - 著作権者がAI学習に自発的にデータを提供する場合、「金銭的な報酬や税制優遇措置」を与える制度を作る。

 - 例えば、著作権者がAI企業と直接契約し、著作物の学習許諾を与える代わりにロイヤリティを受け取るモデル。


まとめ

 現在の日本の著作権法はAIの発展には有利ですが、著作権者にとっては不利な点が多いといえます。「学習天国」と言われる現状を是正し、公平なバランスをとるためには、著作権者の権利保護とAIの発展の両立を図る制度設計が必要であると思われます。 

特に、i) オプトアウト制度の導入、ii) 対価支払いシステムの構築、iii) AI生成物の出典表示義務化は、AIの発展を妨げずに著作権者の権利を守る現実的な方法となると考えます。



参考文献:


弁護士が解説!著作物のAI学習利用に関する海外制度と最新動向


AI と著作権に関する考え方について:文化審議会著作権分科会法制度小委員会


フェアユースとは?


17 U.S.C. §107


 
 
 

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