ニコンが米国RED.com, LLCを子会社化
- tokuhata
- 2024年3月14日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年3月16日

3月7日付発表の株式会社ニコンのプレスリリースによれば、ニコンはRED.com, LLCを子会社化しました。
各種ニュースレターが多数出ていますので詳細は省略し、以下は備忘録的に個人的見解をまとめておきます。
要点は以下の通りです。
(ア)各種クロージング条件の充足を条件とした上で、RED社の持分の全てを取得する
(イ)製品開発における高い信頼性や映像処理技術、ユーザーインターフェイス、光学技術などの知見を持つニコンと、独自の画像圧縮技術やカラーサイエンスをはじめとしたシネマカメラにおけるノウハウを培ってきたRED社の強み、を一体化する
(ウ)双方の事業基盤やネットワークを最大限活用しながら、今後拡大が見込まれる業務用動画市場の開拓を目指す
これまでのいきさつ
1年前は特許訴訟問題で争っていた両社ですのでこのニュースは業界でもかなり意外性を伴って受け止められているようです。特許訴訟に関するこれまでのいきさつをごく簡単に時系列的に示すと以下の通りです。
2022年5月:REDがニコンを特許侵害で提訴
2022年9月:ニコンが反訴
2023年4月:REDが提訴取り下げ
特許訴訟問題については何度かブログに書いているのでそちらも併せてご覧ください。
RED社とニコンの特許訴訟問題が終結
RED社の圧縮RAWとは
RED対ニコン特許訴訟問題続報
REDはこれまで何度も他社に対して特許に関する提訴を行ってきました。特許の権利行使は同社の戦略であるといっても過言ではないくらいです。そしてそれらの訴訟にことごとく勝訴してきました。2019年にはアップルがREDの特許は無効であると異議申し立てを起こしましたが証拠不十分で却下されました。ニコンに対する提訴にも同じ特許が含まれていたので技術的にはニコン不利と思われました。ニコンの反訴は技術的観点から特許性を否定するのではなくこの特許は出願時点で新規性を失っているので無効であるという主張でした。おそらくREDにとってこの反訴の内容は想定外だったと思われます。技術的観点ではなくREDの出願手続きに問題があったという内容だったからです。反訴の内容を見たREDはおそらく自分が不利だと状況判断したと想像します。最終的にはREDが提訴を取り下げた形で終結しています。詳細経緯は上記過去ブログをご参照ください。以上の経緯を考えるとニコンにとって有利な条件で子会社化の合意に至ったのではないかと想像します。
子会社化の背景
両社のメリット・デメリット(課題・懸案事項)を考えると以下の通りです。
メリット
シナジー効果: 子会社化により、ニコンの製品開発、信頼性、画像処理、光学技術に関する専門知識と、RED独自の画像圧縮技術が融合する。
市場の拡大: ニコンは、REDの確立された地位と顧客基盤を活用することで、急成長するプロ用デジタルシネマカメラ市場への参入を目指す。
イノベーション: このコラボレーションは、映画やビデオ制作の業界における新しいコンセプトに基づく製品につながる可能性がある。
デメリット(課題・懸案事項)
統合の課題: 2つの異なる企業文化やワークフローを統合・調整する必要がある。
財務リスク: 買収には金銭的な投資が伴う(買収金額は不明)。成功が保証されているわけではない。
競争: シネマカメラ業界は競争が激しく、ニコンは既存のプレーヤーと対峙することになる。
今後の展開
内部圧縮RAWに関してはニコンとREDの間で問題が再燃することはなさそうです。一方、過去にREDとの間で特許に関する取引をし、ライセンス契約している他社の動きは気になるところです。内部圧縮RAWが業界に開放されるのではないかという意見もあるようですのでそこも気になります。ニコンがシネマカメラに参入する意図があることは当然予想されます。ニコンとREDは、両社の強みを組み合わせることで、プロ用デジタルシネマ向けの特徴ある製品を開発し、映画制作者に提供するでしょう。REDの創立者である前社長のJames Jannard氏がREDを創立した動機は、かつては非常に高価であったシネマカメラをリーズナブルな価格でビデオグラファーに提供することだったと聞いています。今はまだかなり高価(数百万円、個人では買いにくい)ですが今後はニコンのコンシューマ機器における量産技術を生かし個人でも手が出しやすいシネマカメラの開発が期待されます。技術的な側面で気になるところは、REDシネマカメラのマウントは今後どうなるのか(今はRFマウント)、高価なシネマカメラとリーズナブルなデジタル一眼・ミラーレス動画機はどう共存するのか、などがあげられます。今後の動きに注目したいと思います。
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