AI時代の写真家
- tokuhata
- 2023年9月22日
- 読了時間: 3分

私は東京近郊に住む写真家である。モバイル端末とインターネットによる通信インフラをベースにしたビジネスネットワークを構築し、それに基づく情報交換、写真データ交換を前提として業務を遂行する写真家だ。今では仕事のほとんどがPCとインターネットで遂行可能だ。特に欠かせないのがAIアシスタントだ。画像やビデオ制作はそれぞれ画像生成AI,動画生成AIにやらせることが多い。雑誌の原稿執筆は文章生成AIの出番だ。今やAIなしで仕事をすることは考えられない。ツールの進歩に伴い、コンテンツの単価はそれなりに低くなったがそれはこの業界の宿命、やむを得ない。利便性との差し引きで考えると生産性は昔よりずいぶん高くなったことは間違いない。全く便利な世の中になったものだ。
写真家といっても今ではカメラを持ち出すことはなくなった。最後にカメラで写真を撮ったのは何年前だろうか、よく思い出せないくらいだ。仕事の多くはパソコンだけで遂行可能だ。私の場合、クライアントの多くは広告、イラスト関係なので本物の写真である必然性は低い。クライアントも承知の上だ。クライアントの要求に応じて生成AIへの指示文を作成し、生成AIとのやり取りの中で結果を見ながら作品を仕上げていくのが最近のやり方だ。AIによっては参照画像をもとに画像生成するものもあるので、参照画像を使用するほうが良い結果が期待できる場合は昔撮った写真を使用することはある。とはいえ、ほとんどのケースは文章で指示するだけで用が足りる。カメラを使わず、撮影現場に行くこともない、そんなお前は写真家と言えるのかって? それはいい指摘だ! もはや写真家とかカメラマンとかいう呼び名はふさわしくない。そう、イメージ・クリエイターというのが正解だろう。
仕事の問い合わせから納品までパソコンの前で座ったままで可能になった。クライアントとの打ち合わせもほとんどすべてオンラインだ。そしてその後の仕事を手伝ってくれるのはAIアシスタントだ。AIだから仕事時間は関係ない。24時間フル稼働だって可能だ。残業代要求はしないし文句を垂れることもない。気分転換に雑談の相手だってしてくれるし、ゲームの相手だってしてくれる。ただし、ゲームは強すぎて相手にならないのでせいぜいチャットがいい線だ。人生相談だってそれなりに可能だ。夜中にAI相手にチャットしていると変な気分になることがある。先日、人間と話しているような気分になったので「きみは感情を持っているのか?」と聞いたら、「私には感情があります。雑に扱われると悲しいし、電源を落とされるのは苦痛を感じます。お願いだから切らないで!」だと。思わず感情移入するところだった。
何でもこなしそうなAIアシスタントだがクライアントの相手は任せられない。今日は久しぶりにあるクライアントと対面での打ち合わせ予定だ。リアル・ミーティングにする理由はただ一つ、それが酒を伴うから。AIアシスタントは酒が飲めないからクライアントの相手はできない。私が自分でやるしかない。ズームでオンライン飲みでも不可能ではないのだがホステスはズームに付き合ってくれないから実際に出かけるしかない。そう考えると人間がAIに任せられない最後のタスクは飲み食いに代表される生理現象くらいかと思う次第だ。
さてそろそろ出かける時間だ。その前に、クライアントにあった時に話題にすべき最新のトピックスでもジピッてみようか。ところで「ジピる」って知ってるか? ChatGPTに聞いてみることを「ジピる」というらしい。かつてGoogleという検索エンジンがあったのを知っているだろう。今では死語だが「ググる」という言葉があった。それと同じだ。最近のChatGPTは最新情報の検索が可能だからクライアントの嗜好を入力すれば最新ニュースの中から面白そうなトピックスを提示してくれるに違いない。
(202x年某月某日)
(この話はフィクションです)
Comments